ラレトラ

可賀レトラの日記と小説置き場
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二条と蓮さん3『明日会えたらあいうえお』

二条
 高校生。芸人志望。
 よく河原で練習している。

蓮さん
 大人。スロッター。
 川沿いの高層マンションの眺めのいい部屋に住んでいる。


拍手のお礼メッセージにて不定期連載中。
本文は追記から。

今回は二人の出会いのおはなし。

 

*****

 

 

 

 ぶかっこうな後ろ姿だな、と思ったのだ。

 

 その日はスロットでひどく負けた。調子が出ないと思って台を替えたのがいけなかった。
 後悔先に立たず。
 ここ一年では三本の指に入るくらい負けた。もともと宵越しの金なんて持たない主義だが、晩飯代まで持って行かれた。
 一食くらい、食べなきゃ食べないで、まったくもって構わないのだが。

 

 川べり、といっても川の流れからはだいぶ離れている。段丘の上の歩道をとぼとぼ歩いて帰る。
 何年も着ているリーバイスのジーンズに、この前まで着ていたのがくたびれ果てたのでやむなく買い換えた黒いTシャツ。
 靴だけは立派だ。濃紺に赤のラインが光るスニーカー。きっと走ったらとても速く走れるに違いない。もっとも、この歳で走ることなどはない。
 くれた人のことは……忘れた。

 

 あめんぼ、あかいな、あいうえお。
 かきのき、くりのき、かきくけこ。

 

 どこかから声がする。
 河川敷は広い。遊水公園もあれば、フットサルコートになっている部分もある。
 ただ、今歩いている部分の下には何もない。
 ぼうぼう繁った草が四角く刈り取られているだけだ。

 

 なめくじ、のろのろ、なにぬねの。
 はとぽっぽ、ほろほろ、はひふへほ。

 

 まだ小さくしか聞こえないが、よく通る声だった。太くて、ぶ厚くて、けれど男性にしては少し高めの。
 何もない真ん中に、灰色の制服を着た後ろ姿が見えた。
 ……ぶかっこうだと思った。
 背は自分よりも高いようだが、服のサイズが合っていない。ブレザーより色の濃い真っ黒な髪は、切り時を逃したうえに寝癖がはねている。

 

 やきぐり、ゆでぐり、やいゆえよ。
 らいちょう、さむかろ、らりるれろ。

 

 しかし、声はすうっと耳に届いた。
 反対を向いているから、真っ直ぐは飛んでこないはずなのに、耳から入って、神経細胞を次々と刺激して、脳までたどり着いて、そこでわんわんと反響した。
 うるさかった。
 ……自分の、心臓の音が、うるさかった。

 

 わいわい、わっしょい、わゐうゑを!

 

 その男は、振り返った。
 俺はすぐそばまで降りて近づいていたのだ。
 黒い太すぎる眼鏡のふちのむこうの……透き通ったような目と、目が合った。

 

「わあ! びっくりした!」
「……すまん」
「えっと、どなたですか? 勧誘? 宗教? それとも道案内?」
「は?」
「あ、俺そういう人によく声かけられるんで。違うんですね。ならいいや」
 ぶかっこうな高校生は笑った。いや、ぶかっこうではなかった。それは後ろ姿だけだった。
 顔立ちは悪くなかった。男の顔の美醜なんて気にしたこともないが、愛嬌があった。しかし、透き通って底のない目をしていた。そのおそろしさを、眼鏡でごまかしているようだった。
「俺、二条っていいます。あなたは?」
「……蓮」
 正直、何で答えようと思ったのかわからない。人違いだとかなんとか言って、立ち去ればよかったものを。
「レンさん」
 しかし、二条は嬉しそうだった。自分では滑舌が悪くてうまく発音できないその名前を、きれいに鮮やかに呼んだ。
 その馬鹿げた眼鏡を気にくわないと思い、どうでもいいと思い、そして、少しだけ話してみたくなったのだ。
「さっき、何してたんだ?」
「さっき?」
「あの、アメンボがどうたら」
「ああ」
 二条ははにかむ。
「発声練習です。準備体操みたいなもの」
「芝居でもやるのか? それとも歌でも」
「お笑いです。芸人になりたいんです」

 変なやつだな、と思った。二条にとっては、これは、ほめ言葉にあたるのだろうか。
「いつもここでやってるのか」
「そうです」
「見たことない」
 と言って、今日大負けしたことを思い出した。早々に退散したから、普段と時間帯が違ったのだ。
「ここ、というかいつもはもっとあっちのほうで。今日は気分を変えようかなと思って。そしたら、いいことがありましたね」
「いいこと?」
「蓮さんと知り合いになれた」
 二条は真顔で言った。

 

「知り合いじゃない」
「なら、なに?」
「……通りすがり」
 ふふ、と笑う。やっぱり変なやつだと思った。
「じゃあ、明日も通りすがってください」
 俺は答えなかった。
 踵を返してコンクリートブロックをのぼっていった。元の道に戻った。

 

 あめんぼ、あかいな、あいうえお。

 

 ちらりと二条を見やる。
 ブレザーの背中は最初と同じようにぶかっこうに見えた。

 

 ……わいわい、わっしょい、わゐうゑを!

 

 気が向いたらな、と心の中で返事した。
 そういえば久しぶりに、人と話をしたのだった。

 

 

 

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