ラレトラ

可賀レトラの日記と小説置き場
<< 『この腕いっぱいの幸福(しあわせ)を』 5 | main | 拍手のお返事 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |  拍手! | にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ
『この腕いっぱいの幸福(しあわせ)を』 6(終)

※成人向け描写が含まれます。ご注意ください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「たつっ……ン、ん!」
 千鶴の声がくぐもる。艶めかしい瞳が樹の目を見上げる。
 目をあけたままのキスなんて初めてだった。まつげが長いな、なんて場違いみたいな感想を抱く。
 ……どころじゃなかった。
「ごめん、聞こえなかったからもう一回言って」
「……いわない」
 右手で左手をつかまえる。指を絡ませる。
「まあ、これが答えみたいなものか」
 指がしっかり握り返してくるから。少し骨ばった、千鶴の手。
 手には手を味わわせながら、唇はもう一度言葉を奪いにかかる。
「ア、ん、……んっ」
 舌でまさぐり、歯列をこじあけようとなぞる。ほんの少しでも開かれればこちらのもの。舌と舌はかすかに触れただけで、ぴりぴりと電流をながす。
 口の端から透明な唾液が落ちる。少し離れて舌で掬う。口に、戻す。
「なんでいきなり、キス、なんて……」
 千鶴の頬が上気する。息があがる。
「好きだから。さっき言ったの聞いてなかった? ならもっかい言う。千鶴さんが、好きだから」
 名前を呼びたかった。兄が、他の誰かがそう呼んだみたいに自分の口で、千鶴の名前を。その名が引き合わせてくれたなら、なおのこと。
 抱きしめるとぱさりと音がした。きっと持っていた一輪が落ちたのだ。千鶴は、千鶴のにおいがした。部屋に入ったときに感じた香りを、強く濃く凝縮させたみたいな。
 樹は言う。
「ねえ……部屋に男連れ込んどいてさっきの返事って、意味わかってる」
「……ああ」
 千鶴は抱きしめ返しながら答えた。
「だって、僕だって、樹さんが好きだ」

 ベッドにもつれこむと香りが一層強くなった。ここで眠ってしまったら、きっとものすごく幸せだろう。そんなことをしたら、死ぬほど後悔するに決まっているが。
 すぐ下にある千鶴の身体。目と目が合う。考える間が惜しくてキスを落とす。そのまま頬に頬をすりつける、猫みたいに。
「千鶴さん、肌すべすべだ」
「人と比べたことがない」
 すぐ耳元で声が聞こえる。熱い。
「いいの、他人なんて。二人なんだから」
 服を脱がせようとしたら、体を起こされて一人で脱ぎ始めるから少し残念になる。しかし、セーターもシャツもきちんと畳んでいて、ちょっと笑った。仕事中じゃないんだから。
 樹が脱いだものも渡したら平然と並べて陳列しそうだったけれど、そんなことをしている暇はない。
 触れ合う肌と肌。体もやはりすべらかで、今まで触ったことのある女性の肌と違って、皮膚のすぐ裏まで肉体がみっしり詰まっているような……
「あっ」
 しかしここは同じだ。直下に性感がひそんでいる。
 指でこねて尖りを持った乳首を、ついばむように食む。
「樹さん、そんな、ところ」
 あえぎ声なんてなくても、声が少しかすれただけで、息があがるだけで猛烈に煽られる。
「んあっ……ん」
 しっとりと湿り気を帯びる。外は寒かったのに。今だって、触れ合っていないところは冷たいのに。
 隣の部屋から差し込む明かりが、千鶴の上に樹の影を落とした。そのまま刻み込んでしまいたい。強く、強く。
「ンっ……!」
 同性の、そんな場所に触れるなんて、もちろん初めてだった。固く立ち上がった屹立。
 見上げれば眦が潤んでいる。羞恥にあおられたようにきつく目をつむる。樹がこすりあげるたび、何度でも。
「あ、ン……っ、ん……だめだ、たつるさ、……ああっ」
「何がダメなの」
「だめ、だよ……そんな、ンっ!」
 こないだ、自分でしたのはいつだっただろう。いまは便利な時代だから、いい感じの画面を片手に持ってやったりしていたけれど、久しぶりのその日はあまりのそそらなさに萎えそうになって……気づけば脳裏に映ったのは千鶴の涙。あっけなく果てたときには「ついにここまできたか」といっそ笑った。
「千鶴さん、目あけて。ちゃんと見て」
 どうやったら気持ちがいいのか、表情を見ながら確かめるように手を動かす。千鶴を触っているのに、まるで自慰をしているような……自分の熱は解放されずに溜まる一方なのに。
「だめ、でる……はな、せ」
 息の合間に、響く声。
「いいから。そのまま」
「あ、ばかっ……アアっ」
 息を呑むような空白、のあとの放出。
 普段ならやっちゃった、としか思えない温度が、どうしようもない興奮を呼び起こす。手のひらで全部受け止めてしまった。
「も、……あ、あ……」
 荒い息も固く丸めた体も全部抱きとめてしまいたいけれど、それでは自分の熱がおさまらない。ひたすらに疼いて、はち切れそうだ。
「千鶴さん」
「……ん」
 かろうじて出せた、というような声がした。
「嫌だったら言って。たぶん、やめられないけど」
「な、に」
 ぐずぐずにとろけた指を、そのまま後ろへ滑らせた。反対の手で、足を片方高く持ち上げる。
「……や!」
 最初はすんなり上がったのに、途中でぎゅっと抵抗された。
「力、抜いて。大丈夫」
「大丈夫なわけ、な……」
 つやつやとした太腿の裏が視覚を刺激する。もしかしたら、胸とか性器を見るより興奮したかもしれない。だって、どこまで心を許せたらこんな体勢が取れるだろうか。許して、くれているのだろうか。
 だから、優しくしたい、気持ちよくさせたい、と深く思う。少しざらつく周辺を中指で丹念にこする。油断した隙に、中をうかがう。
 一度目、二度目はまだ無理だった。三度目、ふっと力が抜けた瞬間、つぷり、と。
「ん、あッ」
 入り口がとてもきつくて、中は……「下の口」って表現を考えついた人はすごい、なんて下品なことをつい考えるくらい。
 だめだ、入れたい。……でも、まだ、だめだ。
「ん……ん、ん」
「千鶴さん、苦しくない? もう少しゆっくりのほうがいいかな」
「そんなこと、きくな」
 溢れそうなコップのふちで必死に抵抗している、みたいな声。口より上は腕に隠されて見えない。
 あー、ちゃんと見てって言ったのに。……まあいいか。
「だって聞かなきゃわかんないから。それとも、気持ちよさそうだからいいのかな……ほら指、もっとって感じで、めっちゃ引きずり込んでくる」
「バカ!」
 千鶴の内側と自分の指は、どちらがどちらかわからないほどずぶずぶに潤む。
「……だめだ……もう入れたい」
 言おうとする前に、欲望は口からするりとこぼれでた。
「……いいよ」
 かちり、とスイッチが入る。

 指だけでもぎりぎりだったのに、絶対入るわけない、と思いそうになる。でも、どうしてもつながりたいのだ。情動は固くなりすぎて、なぜだか頭のほうの血管まで危ないことになっている気がした。千鶴を気遣わなければならないのに、余裕なんてひとかけらもない。
「千鶴さん、ちから抜ける?」
「は、あっ……っ」
 ……自分だけじゃない。千鶴も、つながろうとしてくれている。足はめいっぱい開かれて、あられもなく受け入れられている。
 荒い息を吐く唇に、唇を落とした。ぐずぐずに舌を絡める。甘い、甘い千鶴の音色。唾液は入り混じって、どちらがどちらかわからない。
 先端が入ってしまうと、少しスムーズになった。頭の中でうるさく鳴り響く非常ベルに体を乗っ取られてしまわないよう、必死で我慢して、少し、少し、また少しずつ。
「は、……はっ」
「あ……ん、あンっ…………ああっ」
 動きたい。けど、とろけていたい。
 ベッドの海にたゆたいながらまどろんでいたい。……でも、猛烈にいきたい。
「動いていい、てか、動く……」
「あ、や、…………あ、ンンっ!」
 肩口に顔をうずめた。少しの汗のにおい。生きているにおい。
「んっ……!」
「……っ」
 頭のてっぺんまでせり上がった官能。
 のまれる寸前。ぴん、と突き通る感覚。
 どくどくと心臓の音が鳴り響く。千鶴の腕が、かたく、樹を抱き留めている。




 水音で目が覚めた、のは気のせいだったかもしれない。目を開けるととても静かで、慣れない肌触り、そして小さくでこぼこした天井が見えた。
 いつもと違う、と思う。しかし、自分の部屋の天井の模様は思い出せない。
 右腕が重かった。絡みつく体を感じた。
 起こさないように視線だけを向けたつもりだったのに、かさりと掛け布団が音を立てた。まぶたが薄く開かれた。
「起こした、ごめん」
「ううん……おはよう」
 カーテンの色のせいだろうか、薄い青に満ちた朝だった。時間はわからない。ただ、朝だと感じさせる静謐な空気が漂っている。
 大の大人二人にシングルのベッドはおそろしく狭い。やむを得ずのことだったのだろうが、千鶴が密着してくれていることが嬉しかった。行為の記憶よりも、より一層近づけた証という感じがした。
 千鶴が起き上がった。
 寝間着の前を両手でつかんで「ちょっと寒い」と言う。樹も体を起こす。覚えがあまりないが、借りたシャツを着ているようだ。袖が少し短かった。
 温めるように千鶴を斜め後ろからふわりと抱いた。そのまましばらく、じっとする。
 千鶴は、唐突に言った。
「……なんで、花束?」
 視線の先をたどると、浅い両手鍋からのぞいた青い薔薇と目が合った。
「似合ってる、って思ったから」
 樹は答える。
「でもやっぱり、さすがに迷惑なサイズだったよね」
 苦笑しながら付け足した。
「いや」
 千鶴は微笑むようなくちぶりで言った。
「そんなこと、ないんだ」
「……そう?」
 樹は信じられずに聞き返す。
「恋愛には嫌な思い出しかなかった。昔好きだった人がいて……彼が、冗談だったんだろうな、僕のことが好きだって言ったのを真に受けてしまって、そんなつもりじゃなかったって後から言われて、とても傷ついたことがあった」
「うん」
 小さく返事をする。
「だから、もう恋愛なんてしない、好きな人ができても何も言わない、と決めていた。西條に彼女がいたことは、必然のような気までしてた。誰かに思いを伝えられてももう二度と信じるもんか、なんて思ってた」
 千鶴はもう一度、テーブルの上の花に目を向けた。
「昨日はでかすぎる、と思ったけど、今考えるとあの大きさも悪くなかったな、なんて思うんだ。あの花束を抱えきれるくらい、これから誰よりも、幸福な人間になってやろうって」
 ――そう思ってる。だから、これからずっと……一緒に。

 そう言って千鶴は微笑んだ。
 その顔は、もうおそろしくなどなくて、ただひたすらに美しかった。



(終)

 

| [小説][BL]この腕いっぱいの幸福 | 07:24 | comments(0) | - |  拍手! | にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ
スポンサーサイト
| - | 07:24 | - | - |  拍手! | にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ









+ PROFILE
+ SELECTED ENTRIES
+ CATEGORIES
+ ARCHIVES
+ RECENT COMMENTS
+ LINKS
+ MOBILE
qrcode
+ PR
+ RECOMMEND
+ OTHERS
このページの先頭へ