ラレトラ

可賀レトラの日記と小説置き場
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二条と蓮さん4『ゼリー飲料(コーラ味)』
二条
 高校生。芸人志望。
 よく河原で練習している。

蓮さん
 大人。スロッター。
 川沿いの高層マンションの眺めのいい部屋に住んでいる。


拍手のお礼メッセージにて不定期連載中。
追記から、蓮さん風邪を引く、の巻。


*****




「あら。今日はあなたひとりなのね」
 たとえば、なんの変哲もない道端、常連でもない店の中、初めて訪れた旅行先。
 おおよそ、知り合いなどめったにいないはずのそんな場所で、聞こえてくる親しげな呼びかけ。こういう声はだいたい自分に向けられたものだと、なぜか相場が決まっている。
 振り返ると、はたして母くらいの年齢の店員と目が合った。水色のユニフォームが清潔感に溢れている。棚にカラフルなジャンク麺を並べながら、俺に話しかけていた。
「そうなんです」
「いつもお兄さんと一緒だから」
 たしかに、蓮さんの家に行くときには必ずこのコンビニに立ち寄るのだった。一見さん以上、常連未満というわけだ。
 今日は、河原での稽古中に喉が乾いたから、わざわざひとりでやってきたのだ。何となく、最近蓮さんに会っていない気がするなあ……などと思いながら。
「俺たち、覚えられるほど目立ちますか」
「いやねえ、違うのよ。息子と同じくらいの年だから、ふと目に入るのね」
「へー。そんなに大きい息子さんがいる年には見えませんよ」
 俺が真面目な顔で言うと、店員さんは「やーねーからかって!」と言いながら笑った。
「お兄さんは風邪かしら」
「風邪?」
「きのう彼もひとりできて、ゴホゴホ咳き込んでたから。ってやだ、ひょっとして兄弟じゃなかった? 親子にもお友達にも見えないから、てっきり」
「そこは、ご想像にお任せしますよ」
 あらあなたずいぶん面白い子なのねえ、など笑いながら言われる。ありがたいほめ言葉だ。
 そのまま、風邪に効く食材などの世間話をして店を出た。
 手には重いビニール袋がぶらさがっている。

 くるり、とドアノブを回してから、インターホンを押すのを忘れた、と気づいた。もちろん開かなければ鳴らすつもりでいたが、案の定すっと開く。
 気配、というのは不思議な現象だ。
 狭い玄関、ゴミ袋の積まれた廊下、その向こうの居室にベランダに通じる窓ガラス。
 蓮さんの姿は見えないのに、音もなにも聞こえないのに、いる、と確実にわかる。
 けものの本能のようなものかもしれない。
 だとしたら、弱っているからなおさら、なのだろうか。仕留めるに、これ以上のチャンスなどない。
 ビールの缶タワーを蹴り飛ばさないよう気をつけて、室内にするりと侵入した。
「……誰」
 部屋の内側を向いて、横たわるこんもりした布団。
 すっかり涸れた声が、飢えた獣の心を刺激する。
「だから、鍵かけたらって言ったのに。こんなふうに不法侵入されちゃうんだから」
「なんだ、二条か」
 けふん、と小さい咳が聞こえた。
 ……なんだ、二条か、か。
「風邪ひいた」
「そうみたいだから来ましたよ」
 臨戦はまだだ。ビニール袋をぷらぷらと目の前で振ってみせる。蓮さんは薄く目を開けた。
「なんも食いたくない」
 蓮さんに関してはこのセリフは通常運行のため、体調の把握には役立たない。
「ほら、そう言わずに」
 ベッドの端っこ、蓮さんの目の前に買ってきたものを次々並べる。
 ゼリー飲料(アップル味)、ゼリー飲料(グレープ味)、ゼリー飲料(コーラ味)、ゼリー飲料(マスカット味)、ゼリー飲料(グレープフルーツ味)、ゼリー飲料(オレンジ味)。それから、バナナをひとふさ。
「最後がおかしいだろ」
「これは斎藤さんのオススメです」
「誰だよ」
「ロオソンのパートのママさん」
 ほんとお前ってよくわかんねえ、と蓮さんはぼやいた。その声は、なんだかとても丸いかたちに聞こえた。
「っていうか、それ以外もぜんぶおかしいんだよ……なんでそんな似たのばっかり」
「蓮さん、食事は八秒チャージにかぎる、って言ってたじゃないですか。新発売のコーラ味も買ってきたんですよ」
「コーラってなあ」
 キャップをくっとひねって開けてやった。寝転んだままの口もとに当てると、唇をすぼめて一口吸い込む。
「なんかパチパチする。まず」
「もうちょっと元気でたらバナナも食べてくださいね。俺のバナナでもいいですけど」
「死にたいのか」
 蓮さんは本気の目をしたが、俺は笑った。
「いや、まじで言われたことあるんですよ? 歌舞伎町のあたり歩いてたとき、ガタイのいいお兄さんに『ニイちゃんいい身体してんねー俺のバナナ安くしとくよー』って」
「売るな、買うな、そんなところ歩くんじゃねえ」
「蓮さん、優しいな」
 蓮さんはフン、と息を吐く。
「……バナナ、といえば」
 蓮さんのバナナですか、とすかさず口をつきそうになったが、すんでのところで思いとどまり、耳だけすませることにした。
「親父がむかし、買ってきたんだよ。風邪ひいて、寝こんでたら、おい食え、とか言ってさ。普段帰ってもこねえくせに、そんなモソモソしたもの食える状況じゃねえし、いらねえって言ったら、また出てって……それから三年帰ってこなかった」
 掛け布団がかさと音を立てる。
 俺はなんとなく、蓮さんの頭に手をおいた。そのままゆっくりとなでるように手を動かす。
「いらねえ」と言われるかと思ったが、蓮さんはなにも言わなかった。
「……だからバナナは、嫌いなんだよ」
 投げやりではない、押し出すような声だった。
「じゃあ、こっちにしときましょうか」
 また、ゼリー飲料(コーラ味)を差し出してみる。
「そっちもきらい。パチパチするから」
 そう言いながらも、蓮さんはパックに口をつける。そして一気にギュッと、ぺしゃんこになるまで飲み干した。

 空のパックは無造作に放られた。
 部屋の片隅にまたひとつ、生きた証が積み上がる。

| [SS][BL]二条と蓮さん | 21:35 | comments(0) | - |  拍手! | にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ
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