ラレトラ

可賀レトラの日記と小説置き場
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SS『失恋花火』
タイトルどおりアンハッピーエンドです。

*****

2015年8月お題SSズ募集詳細

主催幹事:
牛野若丸さま

お題発案者:
匿名希望さま

お題1:
『葉』『汗』『花火』
いずれも解釈自由、どれか一つ以上を使って書く。

お題2:
『水』を表現(直接使用してもよし、抽象的でも比喩的でもよし)した話を書く。

お題1と2、いずれも4000文字以内とする。

*****


字数は四千字くらいです。お題1で、キーワードを三つとも使ってみました。
続きからどうぞ。


*****




『失恋花火』




 あでやかな浴衣姿がそこかしこを埋め尽くしていた。改札に吸い込まれるそれに分け入りながら、ああ今日帰ってきたのは間違いだった、と多すぎる人の姿に昌孝(まさたか)は少し不機嫌になる。しかし、思えば海辺に向かうこの路線は、彼を乗せてガタゴト揺れ始めたときからすでにカラフルな男女を幾組も咲かせていたのだった。気づかない自分がうかつだった、と思い直す。八月の上旬。うだるような熱さがいつまでも引かない、夕暮れだった。
 改札を出て正面、別路線への乗り換え階段の目の前が待ち合わせスポットになっている。昌孝もバスに乗り換えようとそちらに向かい、ふと、一人の前で目が留まった。
「紗世子(さよこ)」
 その女性は携帯電話に視線を落としていたが、昌孝の声に目を上げ、驚いた顔をした。
「あれ、たかちゃん、びっくり。帰ってたの?」
「そう。夏休み取れたから。今から実家向かうとこ」
 紗世子はしとやかに微笑んだ。「おばさん、こないだゴミ捨ての時にばったり会ったら『昌孝がちっとも帰ってこない』って悲しそうにしてたよ」
「兄貴が近いんだからいいんだよ」
「そうだねえ。よしちゃんは奥さんと、あとヒロくんだっけ? も、一緒なのよく見るよ」
 昌孝は紗世子の全身に目をやった。きちんと着付けられた紺地には大ぶりの花が咲きほこり、薄緑の葉が舞っている。
「でも、そういうことじゃないでしょ。たかちゃんがいなくてさびしいのは、たかちゃんにしかどうしようもないんだから」
「ま、今日は来たんだし。ってか紗世子、それ髪、結婚式でも行くみたいだな」
 髪だけではなくて、顔も耳元に光るアクセサリーもそう見えた。幼い頃から近くで過ごし、彼女が化粧を覚える頃には離れて一人暮らしを始めていたから、単に見慣れないだけかもしれない。紗世子は少しむっとした。
「そんな大層じゃないよー。美容院じゃなくて自分でやったし。……ねえ、変じゃない? 崩れてないかな?」
「大丈夫、大丈夫」
「その、二回言われると不安になるのってなんでだろ」
 紗世子は口をとがらした。その唇も誘うように、控えめにきらきらと光る。
「マイナスにマイナスを掛けるとプラスになる論理だろ。むろん、プラス掛けるプラスはプラスな訳だから成り立たないけどな」
「ダメじゃん」
 ようやく、しとやかなやり方なんて忘れたみたいに、くすくすと笑った。この笑い方は、昔から変わらない。

 改札が近いので時計が見える。時刻は、五時を少し回ったところだった。列車が到着するたびに、鮮やかな人の群れがわっと押し寄せては引いていく。餌にむらがる池の鯉のようだ。いずれは捌かれ、食される……なんて、野暮なことを。いや、下衆の勘ぐりか。
「紗世子は、待ち合わせか?」
「そう。ちょっと遅れてるみたい」
 話題に出すと、気にしてもいいんだ、という風に彼女は少し落ち着かなくなった。携帯電話をちらりと見やる。「五時だったんだけど」
「まあ、まだ時間あるんだろ」
「うん、全然大丈夫なの。たかちゃんは花火行かないの?」
「家から見えるくらいだしな。わざわざ混んでて暑いところに行こうって気には、ね」
「だよねー。無駄に混んでるし、時間もそんなに長くないし……」
 そう言いながら今まさにどこに行こうとしてるんだよ、と指摘したくなって、昌孝はしかし止めた。もし友達と連れだって行くのなら、少なくとも一人くらいは到着している頃だろう。……そうでない、ということは。
「花火といえばさ。高校のキャンプのときのがやっぱ一番楽しかったかも。たかちゃんも一緒だったよね」
「ああ。三年はクラス一緒だったっけ。けっこう打ち上げとかも買ってきて、盛り上がったな」
 昌孝たちの通った高校では、体育祭の代休を利用してクラスで近場にキャンプに行くのが恒例だった。
「キャンプファイヤーもいいけど、やっぱ花火がないとしまらないんだよね。あ、でも、思い出した……あの時たかちゃん、途中でどっか消えたんだよ」
「消えた? おれが?」
 記憶をたどる。
「そうだよ。私、さがしたもん」
「覚えてねえよ」
 もう五年も前の話だ。「てかなんでおれ、捜されてたの」
「そりゃまあ、キャンプの夜といえばねえ……って、私じゃないからね?」
「なんの話だよ」
 ……言いながらも、けれど昌孝は、はっきりと思い出していた。「おれはただ別に……」
「ん?」
「あ、いや、何でもなかった」
 思い出してしまったが、それを紗世子には言えなかった。
 その晩、昌孝が誠(まこと)と二人で何を話したか。

 赤い火が高々と燃え上がっていた。九月も下旬の山奥はうすら寒かった。近づけばじりと焦げ付き、遠ざかればただ恋しい。煙にゆらめく夜風にふと人影が、と思ったら、それが誠だった。
「けっこう上手く燃えるもんだね」
「まあ三年目ともなれば、かな」
 パチリと火の粉がはじける。
「もうすぐ花火始めるのかな。なあ昌孝……ちょっと海のほう行かね?」
「別にいいけど?」
 唐突な誘いだったが、昌孝は了承した。なぜか嬉しさを感じた。Tシャツ、そして七分丈のズボンからのぞく誠の手足は細すぎるほどに痩せている。雑木林を踏みしめる背中を、浮き立つ気持ちで追った。ものの五分で海に出る。サイクリングロードから少し突き出したコンクリートに二人並んで座る。海風は、ひやりとしていた。
「あっという間だなー」
「なにが」
「なんでも。体育祭も、高校生活も」
「まあね」
 月夜ではなかった。広い空を雲がびっしり覆っていた。
「大学、決めた?」
「まあぼちぼち」
 ぼちぼち、としか言いようがない。卒業も、大学も、まだどこか遠くにあるような気がしていた。
「やっぱそうだよな……俺ダメだわ。最近、全然そんな気になれない」
「なんで。何か、悩んでんの?」
「うん……」
 言葉が続きそうな気がしたので、昌孝は待っていた。少し肌寒く感じたが、シャツの袖はこれ以上伸びない。
「松島」
 誠は唐突に、幼なじみの名前を口にした。

「紗世子。……好きとか?」
 すっと、誠が遠ざかる気がした。なぜか口がカラカラに乾く。
「まあ。そんな」
「ふーん……」
 慌てて咳払いをして喉をうるおす。「告ったり、」
「やだよ」
 誠は即答した。
「なんで」
「恥ずかしいし、言えねえし、時期わりいし、ふられたら最悪だし」
「あいつ、振るかな」
「知ってたら悩まねえ」
 そりゃそうだ、と呟きながら、昌孝は自身の心のゆらめきに動揺していた。なぜこんなに、内臓が掴まれたような思いを。紗世子だから? 幼なじみだから?
 ……誠、だから?
「でも別に、永遠に言わないわけじゃないだろ」
「まあ、それは。大学受かったらとか……いや、言える気しないけど……」
「そっか」
 まだ心臓がぶるぶるとうるさい。二人きりというこの状況と、告げられた言葉に。少しの沈黙。長さが、わからない。
「あーでも、昌孝に話せてちょっとすっきりした。もしかしたら、明日から頑張れるかも」
「そりゃ、」
 良かった、と言おうとしたが、初めて昌孝を向いた誠の顔が、とてもほっとしていておまけに優しく笑って、なぜだかどきりとしてしまう。
「わりいな」
「いや、全然」
 何気ない風を装って、目をそらして返事をした。少しだけ雲の隙間からのぞいた空は果ての見えないくらい真っ黒だ。……後ろで、ひゅるひゅると音がする。
「あ、始まった」
 木立の向こうに、ほんの小さな打ち上げ花火。パンパンとはじけて、わあっと歓声に変わってから、ゆっくりと消えた。

 それから、五年。一度目の大学受験に失敗した誠は、紗世子に告白しなかったらしい。昌孝は地元を離れたし詳しい話など聞く機会はない。それでも、今確信があった。
「…‥でも、彼女とか花火行きたがるでしょ」
「え?」
 紗世子が話しかけてきていた。
「いや、だからたかちゃんが嫌でもさ」
「だっておれ、彼女いないもん」
「またまたー」
「別に本当だから」
 少し怒ったように付け足した昌孝を面白がったのか、紗世子は笑った。「そうなの? ならこないだの同窓会、りっちゃんに言っておけばよかった。昌孝フリーだよって」
「また、何の話だよ」
「だから、キャンプの花火の時にさ。たかちゃん同窓会来なかったもんね……あ」
 紗世子の目が、ぱっと誰かをとらえた。
 昌孝も、瞬時に振り向いた。
「遅れてごめん!……て、あ、昌孝?」
「もう、遅い!」
 ……思った、とおりだった。
「わ、帰ってたんだ、久しぶり。びっくりした」
 黙って頷くことしか、できない。
「たまたま実家帰ってきたとこだったんだって。うわー連絡くれたら、そんな急がないでよかったのに。汗すごいよ」
「間違えて遠い車両に乗っちゃったんだよ。失敗した」
 誠は、五年前から少しだけ大人びていた。就職活動の真っ最中なのか、暑苦しいジャケットとネクタイを小脇に抱え、黒のスラックスにシャツの上のボタンだけ外して。暑がりでもなかったはずなのに、額にうっすらと汗を浮かべて。
 昌孝のほうは、何も変わっていなかった。
 あの日から、ずっと。ぶるぶるとうるさい心臓も。どきりとうごめく、微かな欲望も。
 ……紗世子が、緊張した面もちで話し始めた。
「たかちゃん、あのね。私たち……」
「ああ」
 わかってるよ、というように二人を交互に見つめて笑顔を向けた。紗世子も誠も糸がゆるんだようにほっとしてみせた。ああ、そうだ。聞かなくたってわかってしまった。
 ようやく誠が思いを遂げて、二人が付き合いだしたこと。
 ……本当は、その思いの先が自分に向けばいいのに、とずっとずっと、思っていたこと。

 紗世子のあでやかな浴衣姿が、誠と並んでゆっくり改札へと吸い込まれていった。
 背中に咲いた大輪の花模様は、あの日の花火のように、さびしかった。



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先日は拙宅にご訪問、ありがとうございました。

一般的な書き方ですと昌孝と誠を中心に描いていくだろう――と思うのですが、このSSは誠の現在の恋人である紗世子との会話を中心に進められています。
そのせいか、誠がほんとうは昌孝のことをどう思っていたのかがわからない分、よけい気になったり、最後の紗世子の浴衣の後ろ姿がきれいな映像として浮かんできたり――と、小説の中心から少し離れた部分に気持ちがいってしまいました。

かゆいところに手が届かないようなもどかしさがあって、これはこれで面白く、小説の楽しみ方というのはひと通りじゃないな、と改めて感じます。

ショコラに応募されるんですね。
全回の発表がまだのようですが、お身体ご自愛しつつ、いい作品を書いてください。
| 倉田 真迂 | 2015/08/10 12:08 PM |

倉田 真迂さま

読んでいただき、またコメントをくださり、ありがとうございます。
投稿作だと書けない書き方がどこまでできるかな?と思う気持ちもありました。書き方しだいで四千字でももっと昌孝と誠の関係を掘り下げられるのでは……と、実験、試行錯誤です。
自分の作品はまだまだなので恐縮ですが、他の方の作品を読んでいると「もどかしいから面白い」と「もどかしいから勿体ない」、明らかな差があらわれるよなあと思います。無論、前者めざして頑張りたいです。
また倉田さまのブログにもお邪魔させてください。
どうもありがとうございました。
| 可賀 | 2015/08/11 10:16 PM |










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