ラレトラ

可賀レトラの日記と小説置き場
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『リピートアゲイン』 10(終)
※成人向け描写が含まれます。ご注意ください。
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 新宿の駅で待ち合わせ、いつもよりさらに遠くまで歩いた。時刻は夕暮れを通り越して夜だ。地味なビジネスホテルに、チェックインを済ます。
「今日はやっぱり、メルさんだったんだね」
「……ばれたらいけないから」
「眼鏡も、似合ってる」
「なんでそんな台詞さらっと言えるの」
 捧は答えず、偽物の長髪を指ですいた。本物だって死んでいるはずの神経が、まるで血が通ったかのように切なくきしむ。眼鏡はあっさり奪い取られ、テレビ台の端に置かれた。
「髪って、外しても平気?」
「うん、大丈夫」
「よかった。今日は俺に任せて」
 狭い室内で、ベッドにくっつきそうなデスクの椅子に座らせられる。
「どうやって止まってるんだろ……」
「後ろを引っ張ってから、こっち」
 ウィッグを外すと、ネットにくるまれた頭が露わになる。
「これはどうやって?」
「ピンがいくつかついてるから、それを取ってもらえば」
 自分でやった方がもちろん速い手つきだったけれど、中野はされるがままになっていた。
 取り去られて、ぼさぼさになった頭が鏡に映る。
「化粧も落としたい」
「それはさすがに……」
 洗面所でやってくる、と言いかけたが「やらせて」と強く言われた。
 しかたなく、オイルと脱脂綿を渡す。一通りの道具は持っていた。
「つけまつげから取って。地毛、ひっぱらないでね」
「難しいな」
 捧がベッドの淵に腰かけたので、中野もそちらを向く。目を閉じる。
 皮膚の上をゆるく撫でられる感覚は、なんとも言えない心もとなさを催す。同時に、こんなに中途半端な姿をさらして、大丈夫なのだろうかと不安になる。
「できたよ」
 声をかけられたときには、大きく息をついた。
「……次は?」
「シャワーかな」
 捧は、ためらいなく言う。

 カーディガンは自分で脱いだ。
「立って。手、あげて」
 そこから先は、なすがままだ。ブラウスもタンクトップも抜き取られ、スカートは床に落とされた。
 ブラジャーのホックに手間取ってくれたのには、少しだけほっとする。
「ちょっと寄せてから、えいって外すんだよ」
「そう言われましても」
 中野も最初は、付けるのも外すのも後ろ手にはできなかったのを思い出す。根性で練習してマスターした。
 非現実感にとらわれて、自分がどういう状況にあるのかきっと認識が追いついていない。人に晒してもおかしくない場所であるのに、胸があらわになるとなぜか羞恥心を感じる。
「捧さんも早く脱いでよ……」
「メルさん? 巡さん?――裸見るの、初めてだな」
 しかし、興奮を隠しきれない声色で言われたら、恥ずかしがっているのがなんだか馬鹿らしくなった。
 女装が、解けてしまったからかもしれない。
「うるさいな。まかせろって言ったなら、もっとテキパキ」
「え、ちょっと?」
 とまどう声が聞こえたが、ベルトに両手をかけ素早く全部引きずりおろしてやった。上半身も無理やり倒して引っ張って、シャツも脱がす。
「なんだよいきなり!」
 そんなに驚いてもいない声で、今度は逆に、捧が残っていた中野のボクサーパンツを脱がしにかかった。
 転びそうになりながらもあっさりはぎ取られ、二人して、裸でもつれあいながらバスタブに入る。
「わっ、ちょメルさん、それ水」
「知ってる」
 手を伸ばしてシャワーの蛇口をひねると、背の高い捧の後頭部に、見事に降りかかった。ざまあみろだなんて、思ってもいないことを、思う。
「もう……」
 捧は手で濡れた前髪をかきあげた。びしゃびしゃと音がする。水がしたたっていた。
 見つめられると、解けた魔法が再びかかったみたいに、動けなくなった。
「なんか」
「ん?」
 捧の声が、いつもより低い気がする。
「巡さん――緊張してる?」
「そんな、わけ」
 こたえる間もなく、唇をふさがれた。
 それだけではない。裸の手も腕も背中まで回されて、ぴたりと肌が密着した。……もっとあられのない箇所まで。
「ン、……っ!」
 捧と交わすキスは初めてだった。妄想でなら何度だって。
 でも、これは現実。頭も胸もとろけそうに痺れてしまう。
「はあっ……」
 少し離れては、また降ってくる。びしゃびしゃとこぼれ続ける音が、捧をつたって中野の上まで落ちてくる。
「ん、ンんっ!」
 かぶりつかれるようなキスのまま、全身をがむしゃらにまさぐられる。胸も、背中も腰も、敏感なところまで。
「声、我慢しないで」
 捧の欲望も、すぐそばに感じた。硬くて、熱い。
「ささげ、さん……」
「名前、で呼んでよ」
「読み方しらないから、」
 マジか、と苦笑する声が聞こえて「ゆうせい、だよ」と続いた。
「優成。……ゆうせい、って読むのか」
「知らなかった? 弟は秀でるに剛健のごうで、シュウゴウ」
「おぼえて、おく」
 今は関係ないと言いたくて、でも捧に関わることなら関係ないなんていえなくて、小さな声で返した。
 その間も体をうごめく手は止まない。
「あ、ん、……そんなとこっ」
「どこ?」
 足の付け根の際どいところを、ゆるゆると撫でられる。
「え、ちょっと!」
 そのまま、手がするりと後ろまで回った。
「うん」
「うん、じゃないっ……なんも、準備とか」
「大丈夫、巡さんが教えてくれたとおりやるから」
「ダメだってっ……、ああっ」
 ……本当を言えば、覚悟していなかったわけがないから、準備だってしてきた。駄目じゃないのにダメと言うなんて馬鹿げてる、とも思っている。
 なのに、そんなところを触られているということが、それが彼だということが……
「ン、あっ……んん」
 壁に押し付けられ、ぬるまったシャワーがびしゃびしゃ音を立て続け、なぜかすでに浴室に用意されていたローションまでずぶずぶになるほど足された。
 バスタブの淵に片足を持ち上げられて、滑りそうな恐怖のなか身体はしっかりと捧に支えられていて、その指が、たぶん中指か何かが、つぷりと侵入してくる。
「ああ……あ、ンっ」
「息吐いて。力、ぬいて……」
 必死で捧の肩を掴む。腰が砕けそうになる。
 声の合間をぬって唇が降る。腫れて、ぼやけて、甘い唾液が垂れる。
「もう我慢、むりだ……入れていい?」
 吐き出されるような声に、鎖骨に額を押し付けて答える。
 熱い固まりが二、三回ぬるぬると滑ってから、中野の体に、飲み込まれた。

「はあっ……巡さん、いい、気持ち、い……」
「優成……っ、ん、ああっ」
 ゆるんでいた中野の高ぶりも、固い腹筋にこすりあげられて、段々力を取り戻した。敏感なところまで刺激され、前も後ろも、あやふやになっていく。
「もっと動いていい」
「ん……ゆっ、くり」
 ズン、と衝撃が突き上げた。
「ん、うっ」
 存在するはずのない快楽の天井。それがどんどんせり上がる。
「優成、ゆう、せい……っ」
 名前を呼んだらどうにかなるわけでもないのに、呼ばずにいられない。頂点が、見えてきたからかもしれない。
 ――終わったら、終わってしまう。
「あ、だめだ、そ、んなに……っ」
「だめ、無理」
 突き上げが増す。水音が聞こえない。
 身体に顔を押し付ける。頭の中が白くなる。
 ――最後に、もう一回だけ。
「やだっ……」
「うそ、だってこんな、よさそう……」
「いや、だ、って、違う……っ」
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 ――これが最後だなんて、嫌だ。
「だめ、でる……」
「い、いよっ……、きて」
 嫌だと思ったのに、胸が苦しいほどいっぱいになる。一緒にいきたくて、強く強くしがみついた。力を入れる。快感が明滅する。
「うっ……」
 がくっと底が抜けたみたいに、いってしまう。
 どこか意識の遠くのほうで、水音がぴしゃぴしゃと、響き続けていた。


 バスタブに腰掛けてしばらくぐったりしてから、抱きかかえられるようにベッドまで運ばれた。そのまま、二回か、三回だったか。きっちりカーテンの閉じられた窓辺に両手をついて、きちんと清掃された床に四つん這いにさせられて、たぶん最後は、ベッドの上であられもない嬌声をあげた。
 喉がかれた。捧から渡されたペットボトルの、冷たい水が心地よく流れ落ちる。
「……若すぎ」
「なにが」
「性欲強すぎってこと」
 隣で寝転がった捧は、これが最後だなんて信じられないくらいの、穏やかな顔で笑った。
「ごめん、だって若いから」
「ばか……」
 中野は、笑えない。
 あんなにも求められて、求めて、本当にこれが欲しかったんだと気づいてしまった。
 さよならを言わなければならないなら、知らないままのほうがよかった。固く目を閉じる。無造作に放り出していた膝を、きつくかかえる。
「どうしたの?」
「どうもしない。……何でもない」
 捧は、体を起こしたようだった。
 見下ろされている気配を感じる。息遣いが、すぐそばで聞こえる。
「巡さん。半年だよ」
「……え?」

 よく分からなくて、聞き返した。
「それ以上は待たせない。もちろん高校は卒業するし、大学は目指してるところに受かる。だからちょっとだけ待ってて」
「待って、って……だって、捧さん、この間最後だって」
 混乱したまま、尋ねる。
 言っている意味はわかるが、突然すぎて理解できていない。
「うん。同じ高校にいるうちは、すっぱり会うのをやめたほうがいいってわかってたけど、最後にエネルギー補充しとかないと受験まで持つ気がしなかったから。わがままだって思ったけど……」
 そう言いながら、照れたように目を伏せる。
「でも、やっぱダメかも。あんなかわいい巡さんとか、とてつもなく幸せな気分とか味わっちゃったら、全然我慢できる自信なくなった。……って、するんだけどさー!」
 投げやりを装って嘆息して、捧はばたりと仰向けに寝転がった。
 はだけたタオルケット。厚い胸板。初めて見たときから今まで、中野が焦がれてたまらない、その姿。
「うそ、だろう……」
「何が? 嘘じゃないよ……え、最後って、そういう意味じゃないからね? 二度と巡さんに会わないなんて俺、無理だから」
 焦ったように、捧が言う。肘をついて、身体を起こそうとする。その目はやっぱり真剣なままで、中野の信じられるそのものだった。
「……ありがとう」
「へ?」
 中野も、身体をそわせるように寝転んだ。腕にそっと手を寄せて、肩に額をおしあてる。
「僕も、ちゃんとするから。会える距離の内定もらって、もう自分が駄目な人間だなんて言わないように、捧さんに会いにくるから待ってて」
 捧は優しく笑った。
「なに言ってるの。だめなとこだって、別に好きなんだけどな」
「……何だよそれ」

 ――次の桜が咲くころには、どんな風が吹くだろう。
 それはこれから半年の自分しだいだ、と中野は心の中で決意する。



(終)


 
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